朝、病棟で術後回診をしているとおじさんに後ろから声をかけられました。
おじさん「おぅ。麻酔の先生だろ?」
−あ!私が麻酔担当した患者さんだ。顔は覚えている。
2週間くらい前にお腹の手術した患者さん。元気に歩いている。
もしかして、めったにないけど、麻酔のお礼言われちゃうのかな?
私「は、はいっ!」
おじさん「先生よう。手術の後から声ががらがらなんだよ。」
(´Д` )
思い出される麻酔科医の存在
ふだん朝から晩まで麻酔をかけていると、
担当患者さんと話すのは手術当日と術後回診の2回だけなので、
毎日回診をしたり、外来で長い付き合いになる患者がいる科と違って、患者さんに顔を覚えられていることはほとんどありません。
影の存在。それが麻酔科医。
でも、なんかトラブルがあるとそうはいきませんね。。
思い出されます。引きずり出されます。
影から。日向に(非難の的に)
で、
さっきの患者さんは、耳鼻科受診。
診断は「片側の反回神経麻痺」
挿管で声が枯れることがありますという説明は術前にしてはいるんですが、だからいいよってはならないですねー。
すぐ治ることが多いって説明しちゃってますし。
ガックしです。優しく挿管したんだけどな。。
ということで、
挿管による反回神経麻痺についてお勉強しました。
挿管性反回神経麻痺について
原因:
挿管チューブ(具体的にはおそらくカフ)が気管を圧迫することによって、微小な血流障害が生じることによる神経障害
*挿管困難による機械的障害や挿管時の声帯脱臼はまた別もの
頻度:
1000-1500人に 1人
心臓手術:50-100人に1人
胸部大動脈手術:3-10人に1人
ちなみに両側になることはほとんどないようです。
あったら呼吸困難(´Д` )
治療:
- ステロイド
- ビタミン
- リハビリ
予後:
2-3か月以内に改善がほとんど
参考文献;気管挿管に伴う声帯麻痺について 麻酔:2015年1月
左側で起きやすい
左右では左が多いとする研究が多く、その理由については、Kikuraらは右口角に固定するので(右利きの麻酔科医が挿管すると自然にそうなる)、声帯の左側に当たるのではと考察されてました。
*イメージ図
リスク
年齢と挿管時間は挿管後声帯麻痺のリスク
最近の面白い研究はあまり見当たらなかったんですが、
リスクについての約3万人を対象としたコホート研究がありました。
PMID: 17341543
この研究によると
リスクは
年齢
長時間の挿管
糖尿病合併
高血圧合併
特に年齢と挿管時間に関しては、こんな傾向があるようです。
50−60歳代と80代以上で二峰性
手術時間は長いほどリスクになるんですね。
今回の手術は60代の10時間手術。。ハイリスクでした。
未熟な麻酔科医でハイリスク
これは、聞きづてならない・・
参照; 耳鼻 36 : 171~174, 1990.
うーん。そうなんだろうか。否定できないが根拠は強くないですよね。。
予防法
予防法についてはあまり根拠あるエビデンスがないようです。
- ラリマ(声門上器具)を使う。
- カフ圧の調整
- 浅すぎる挿管を避ける
では、結局どうすればよかったのか。
はやく、”未熟な麻酔科医”を脱したい泣
まずは長い手術ではカフ圧計をつけようと思います。
おじさんの声、早く治りますように。。