帝王切開麻酔ミスで母子に重度後遺症|ある麻酔科医の私見

またも麻酔科医にとって見過ごすことのできないニュースが。

朝日新聞記事

 京都の産婦人科医院で昨年5月、帝王切開でお産するときの麻酔で母子が重い障害を負っていたことがわかった。家族らは医院の医師らを相手取り、損害賠償を求めて京都地裁に提訴。産婦人科医らでつくる日本産婦人科医会はこの事例について調査を始めた。
 医院は京都府京田辺市の「ふるき産婦人科」。同市の女性(38)の代理人弁護士によると、女性は帝王切開の手術を受ける際、背中に細い管を差し込んで麻酔薬を注入する「硬膜外麻酔」の後、昏睡(こんすい)状態になった。医師は1人だった。別の病院へ搬送中に心臓が止まり、蘇生されたが、いまも寝たきりの状態という。また、搬送先の病院で帝王切開によって女児が生まれたが重度の脳性まひという。
 訴状では、麻酔の針が本来とは違う部分に入り、呼吸などが出来なくなったが、気道の確保が遅れて低酸素脳症になったと主張している。5月にあった第1回口頭弁論で医院側は争う姿勢を示した。院長は取材に「その件は裁判になっているので一切コメントは控える」と話した。
 女性の夫(37)は取材に「こんなことが起こるとは考えられなかった。事故が起こったときのリスクが高すぎる。麻酔を使った高度なお産は1人の医師でやってはいけないのではないか」と話した。医会は大阪府や兵庫県であった無痛分娩(ぶんべん)での妊産婦の死亡例とともに、この件について安全体制に問題がなかったか診療記録などを調査し、必要があれば直接指導するという。(合田禄)
朝日新聞 6/6(火)

記事の要約

つまり、産科クリニックで予定の帝王切開を受けたところ、硬膜外麻酔施行後に急変した。その影響で、おそらく母体が低酸素脳症になり母子に後遺症が残った。
となります。
いつものことながら、ニュース記事からだけだと本当に曖昧な表現が多くてはっきりしない点がいくつもあります。

疑問点

 急変したタイミングは硬膜外麻酔施行直後?

 通常帝王切開は硬膜外麻酔と脊髄くも膜下麻酔を併用します。順序は場合によりますが、通常は硬膜外麻酔を先に行います。硬膜外麻酔施行時には少量の薬剤でテストを行うのが通例です。この時に使用する薬剤は少量で、全脊麻になる量を使用しません。

急変時の様子は?

記事によると患者側は「全脊椎麻酔」病院側は「アレルギーによるショック」と考えているようです。どちらも心肺停止になる可能性はあります。これには、その時のバイタルの変化や皮膚の変化があったかなどが手がかりになると思いますが、どちらかの可能性を否定するのは難しいことだと思います。
ただ、この患者は第一子の時に無痛分娩を問題なく行なっていたことから局所麻酔薬アレルギーは可能性がかなり低いのではないかとは思います。
また、別の可能性として局所麻酔薬を血管内に誤投与することで起こる「局所麻酔薬中毒」も鑑別に上がると思います。

今回の最も問題と思った点

硬膜外麻酔の合併症としての全脊椎麻酔、アレルギー、局所麻酔薬中毒などはいずれも頻度は低いですが人間が行う以上起こり得るものです。
しかし、麻酔にミスがあったかは今回の転機の直接原因ではないと思います。
直接の原因は麻酔で急変があった時の対応が搬送によって遅れた点だったと思います。仮に何らかの理由で呼吸停止した場合、速やかに挿管管理すれば母子ともに後遺症が残らなかった可能性は十分あると思います。
ふるき産婦人科を調べてみると院長である産科医が麻酔科研修を行なった経験があるとのこと。医師が院長一名であるところから憶測するに
院長が麻酔も手術も行なっていた可能性があり、記事からもそのように読み取れます。
仮に院長の麻酔技術が十分であったとしても、1人で麻酔も手術を行うのはとても危険です。今回のように予定手術であれば、術者とは別に麻酔科専従の医師を雇うべきだったのではないでしょうか。

体制の整っていないクリニック等での麻酔について改めて考えさせられます。

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1 Comment

まゆみ

無痛分娩、緊急帝王切開術後二日目に右下肢麻痺となりました。先生はアレルギーでは?と言いました。しかし、両下肢麻痺になるはずですが…どうなのでしょう?右側だけth10からS3まで麻痺しています。術中、麻酔は効いていませんでした。途中で全身麻酔もつかっていました。先生は、麻酔を抜去した次の日に麻痺が起きたのが解せないとのことでした。原因不明のままです。未だに右下肢麻痺と疼痛で、仕事も育児もままならない時があります。こんなことが二度と起きないように、原因をはっきりさせて欲しいです。
そして、2人目は、どうやって産んだらいいのか…悩みますね。

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