硬膜外麻酔、脊髄くも膜下麻酔後の”原因不明”の馬尾症候群の一因:局所麻酔薬の神経毒性

硬膜外麻酔、脊髄くも膜下麻酔。

これらは基本的に安全な麻酔方法として多くの麻酔管理で使用されています。しかし、現実には、術後神経障害を起こすというケースもまれながら存在します。

手術が成功したが、足が動かないという転機は患者にとってあまりにも不覚で、訴訟に繋がるケースも多ようです。中でも、画像に映らず原因を特定できない神経障害について検証したいと思います。

硬膜外麻酔、脊髄くも膜下麻酔とは

硬膜外麻酔、脊髄くも膜下麻酔は、非常に有用な術中、術後の鎮痛方法として多くの全身麻酔と併用されます。

特に帝王切開など、患者に全身麻酔をかけずに腹部以下の鎮痛を得る必要がある時には必須の方法と言えます。

硬膜外麻酔、脊髄くも膜下麻酔についてはこちら

合併症とその頻度

日本麻酔学会で解説している合併症をいかに示します。

日本麻酔科学会ホームページより

神経障害の原因

この中で神経障害の原因となるのは

  • 硬膜外血腫/膿瘍、脊髄くも膜下血腫/膿瘍
    • 穿刺時、穿刺後の出血や感染による膿瘍が硬膜外腔、脊髄くも膜下腔にでき、それが脊髄を圧迫しておこる。
  • 馬尾症候群
    • 何らかの原因で馬尾に障害がでる。圧迫、神経毒性などその誘因はなんでもありで厳密には”原因”ではない

また、直接的な可能性として

  • 針による神経損傷
    • 穿刺針が神経根などに触れる。穿刺時に電撃痛が走るといわれる。

があると思いますが、なぜ学会のホームページに載せていないのでしょうか?

その他に、硬膜外麻酔、脊髄くも膜下麻酔とは直接関係ないが、術後の麻痺をきたす原因となりうるものとして以下が考えられます。

  • 脊髄梗塞
    • 脊髄を栄養する血管が何らかの原因で塞栓し、脊髄に血流が届かなくなった結果梗塞をおこす。
  • 脊柱管狭窄症の発症、増悪
    • 元々あった脊柱管狭窄症が術中体位などで悪化。
  • 術中体位による末梢神経障害
  • 新たな神経疾患の発症

原因不明の馬尾症候群

「馬尾症候群」自体は何らかの原因で馬尾に障害きたしたものという定義です。

馬尾症候群について

その中で、機械的に障害されたもの(血腫、膿瘍)は、画像で診断することができますが、画像上何も原因となりうるものが見つからない、原因不明の馬尾症候群があります。

その原因として、局所麻酔薬の神経毒性も馬尾症候群の原因となりうることがわかっています。

局所麻酔薬毒性による神経障害

これに関しては、動物実験レベルでは脊髄を顕微鏡で見ると神経の変性が起こることがわかっているようですが、これを生身の人間にやるわけにはいかないので、確定診断をつけることはできず、ほかの原因が見当たらない場合の除外診断となります。

同じように局所麻酔薬の神経毒性で起こるとされる神経障害に一過性神経症状と呼ばれるものがありますが、こちらは可逆的なものと定義されているようです。

こういった事象は症例報告レベルの稀な事象であり、あったとしても確定診断が難しいことから正確な発症率やリスクについては明らかではありません

日本での症例報告

日本語での症例報告でもいくつか似たような症例は報告されています。

日本臨床麻酔学会誌34(6):5218−5218、2012

日本臨床麻酔学会誌34(6):5329−5329、2014

いずれにしても、除外診断で原因がはっきりしないので局所麻酔薬障害によるものの可能性を推定しており釈然とはしません。

問題点は何か?

前項の抄録は、自発的に学会で発表されたものですが、こういった発表がなされても単発では報告にとどまりそれ以上議論が深まらないのが現状です。

以前取り上げた脊髄損傷での訴訟についても同様ですが、こういった症例の詳細は患者が訴えたり、医師が自発的に発表しない限り表に出てこないのが現状で、ましてやその症例間での比較や、情報交換がなされることはほとんどありません

こういった、稀ですが患者のその後の人生に大きな影響を与える後遺症についてもっと網羅的に統計をとったり、原因を究明する姿勢が必要なのではないでしょうか。


誤解しないで欲しいのは、こういった症例は交通事故に遭うよりも低い確率で、ほとんどの人が安全に麻酔を受けているということです。

それでも、もし、その合併症が自分や自分の家族に発生した時にはおそらく「交通事故みたいなものだから仕方ない」と割り切れないと思います。

麻酔を他人にする以上こういったまれな事象にも真摯に向き合う姿勢が必要だと感じています。

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6 件のコメント

  • 0.5%マーカイン高比重2.2miでの脊椎くも膜下麻酔を受け、馬尾症候群、左足完全麻痺と診断された患者です
    手術した夜には、左足だけは動かず、しびれを感じて看護師に言っても朝の回診までお待ち下さい!ーとしか言われず痛みに耐えて。、そして朝には完全麻痺していました
    MRIには血腫等の異常はなく、原因不明とされ手術から5日経ってから色々と調べてみた、、、薬品会社にも聞いたら、そう言う副作用があるそうです!ーと言われました!
    元々、腰椎椎間板ヘルニアがL4.5にあり腰痛もあったのですが
    麻酔手技を受けた時の、最初から手技が終わるまでの痛みに不信感があり、入院中になぜ?痛みがあったのか?ーと聞いても
    麻酔手技にはミスは無かった!ーと言われました
    患者が、麻痺を起こしているのなら、まずは麻酔手技に問題はなかっのか?ーと検討するべきでは無いのでしょうか?
    そのあとに、神経毒性の副作用を検討するのでは無いのでしょうか?
    これだけ、症例も少ない中で、直ぐに神経毒性による副作用と言われ、手術前には、全く聞かされてもいない副作用、それも麻痺してしまい、人生までもが、、狂ってしまいました!
    私の知っている範囲での、麻酔科医にもお聞きしました
    MGH麻酔の手引き第6版には、痛みを伴う麻酔薬の注入には神経損傷のサインであり、手技を中止するか、位置をかえる必要があるーと、有りますが何を、意味するのでしょうか?
    麻酔手技をした、医師がこの知識があれば私の足は麻痺を起こさなくても良かったのではないですか?

    疑問が沢山あり、、、1年で、麻痺も症状固定となると思いますので、病院を相手取り訴訟をしようと思っていますが、、、
    私の考え方は間違っていますか?、

    • コメントありがとうございます。
      左脚の完全麻痺ということで、術後とても辛い思いをされていることとお察しします。
      手術の患側はどちらだったでしょうか?手術中の体位はわかりますか?右脚には全く症状は残っていないですか?手技中の痛みがあったということですが、左側に電気のように走るびりっとした痛みがあったのでしょうか?
      もし、電撃痛のような痛みがあった場合、特に片方だけにあった場合には神経根などに針が近づいた可能性もあると思います。(その可能性を疑うのでMGHには針の位置を変えるよう指南されています。)
      局所麻酔薬の神経毒性と判断されているということですが、報告も少なくはっきりしたことは言えないのですが、
      合う点としては、
      1もともとの腰椎ヘルニア:これは、脊柱管が狭くなっていた場合に薬が一部に溜まりやすくなり神経毒性が強く出る可能性があることが指摘されています。
      気になる点としては、
      1 穿刺時の痛み:通常は局所麻酔時の痛み以上のものは感じないと思います。特に電撃痛があった場合先にも述べたように神経に近接した可能性を考えます。
      2 薬液の量:教えていただいた量は脊髄くも膜下麻酔に使用する通常量であり、これで神経毒性を起こすことは通常であれば考えにくいのではと思います。(腰椎ヘルニアの影響がどれほどのものかはわかりかねます。)
      3 片側の麻痺:もし、術中の体位が仰臥位だった場合薬は両足に効いていたと思われますがその場合だと、術後に片側のみに神経毒性があるのは不自然です。(もし、左側を下にする体位だったのであれば矛盾がないということになります。)
      麻酔科医側からは、面と向かって説明は受けることができたのでしょうか?こういった場合に主治医のみからの説明で結局何が起こったかわからないというケースも多いように思います。
      コメント主様がおっしゃるように手術の後、思いもかけない合併症で生活が変わってしまったことは事実と思います。現時点で十分な保障がない以上、納得の行く方法をとられてしかるべきと思います。

      • コメントありがとうございますー
        先生の質問にお答えします!
        手術をしたのは、左足です!
        左足外側半月板損傷でした!
        手術中の体位は、仰が位です!ーただ、手術をする左足に麻酔効果を得るため?ー三分間は、麻酔手技後だけ左足を下にした横を向いていました
        元々軽いヘルニアしかMRIには映ってはおらず今回の麻痺には関係ない!ー問題になるものでは無い!ーと言われました
        右足には、左足が麻痺してしまった時には、全く症状はありませんでした!
        1ヶ月以上たってから坐骨の辺りに知覚異常が有りましたが
        右足ばかりを使っていた為の坐骨神経痛程度で特に問題視されていません
        もうすぐ1年が経過しますが、、左足の尾骨から大腿部側面、膝の側面、後面、そして足首から足趾、足の裏の知覚異常、感覚異常、時々電撃痛があるのと痺れの症状があります

        元々、神経毒性が原因ならなぜ?両足では無いのか?ーとか聞いたら、麻酔後に左下の体位をとったからである!ーと、しかし麻酔は両足にかかっていたのになぜか?ーと聞いたら同じ答えでした
        痛みが有った麻酔手技をどう説明するのか?ーと聞いたら
        痛みを与えてしまって申し訳ありません!ーと全て、整形外科の主治医が説明をしました
        麻酔手技をしたのは、その手術の介助に入った整形外科医師です
        後は、痛みについてですが、
        私も今回で3回目の脊椎くも膜下麻酔をうけ、今回があまりにも痛みがあり、その時から不信感を持っていた夜には、麻痺をしました
        皮膚麻酔のチクリ、針の侵入後から急激に痛くなり、痛みには強いと思っていた私でも声が漏れるほどでした
        この時に、片足だけに電気が走る様な事はありませんてしたが、針が、侵入してくる探る様な針の動きが激痛でした
        そして、間もなく激痛で体が崩れそうになりました
        看護師に押さえつけられたのは、その時で、もう少しだから動かないで!ーと
        針のせいなのか?薬液注入時の痛みなのか?、その後も麻酔が効いてくるまで痛みが有りました
        麻酔は、麻酔手技をした医師は、L3L4と言い、主治医はL2L3と言います
        一度、某大学病院の麻酔科にセカンドオピニオンを受けましたが、穿刺部位や針の傾き、穿刺時の姿勢、手術中の体位、ヘルニアの存在等が重なったもの!ーとしか
        言われず今ひとつ納得が行かないものでした
        先生のコメントの方がよっぽどわかりやすいです
        ありがとうございます

  • 以前からコメントをいただきました、馬尾症候群と診断されている者です
    医薬品副作用救済制度を申請申請していましたが、医療費と入院中のみの医療手当ての支給決定書がPMDAから届きました!0,5%マーカイン高比重液2.2mlをL2.L3に注入したことは適正使用だったと認められた!…という事になりました
    しかし、PMDAでは、問題の麻酔手技ミスを審査したものではなく薬品の副作用だけを審査したものであるため、不服申立てを行う事にしました!
    相手の病院側には、手技ミスではなく副作用だったと主張されてくることを許してしまった事になりますので悔しい限りです…

    局所麻酔薬の神経毒性は激痛を伴う麻酔手技なのか?
    神経内注入でなければ、激痛のあった麻酔手技は説明出来ないのでは無いでしょうか?
    今後は弁護士と相談して行きたいと思います

  •  私も昨年の10月末に、開腹手術を受けた直後から馬尾症候群の痺れに苦しんでいる者です。
    術前、硬膜外麻酔を受けたのですがその際、局所麻酔が効き難かった様子で、時間がかかった様子です。MRIでの確認もしましたが、血種などの異常は見られませんでした。術後4か月目の入っていますが、薬の処方以外には打つ手が無い様子です。他の病院でセカンドオピニオンを受けようと思っています。
     肝心の手術を受けていなければ、今頃日常生活どころか、命に係わる状態でしたので、病院側には大変感謝してはいます。が、私の人生はこの先、このしびれや排せつ障害と共にあるのかと思うと納得がいきません。麻酔医はもっと真摯に受け止めるべきだと思います。
     被害を受けた皆さんが一日でも早く、納得のいく状態になることを心から祈っています。
     

  • 先日、腰椎麻酔をして手術を受けたのですが、腰椎麻酔時に右足に電撃痛(足がビクン!となり、足全体にビリビリとした感覚があった)が走り、右の腰がとても痛くて、「右腰が痛い!」とその場で伝えましたが、注射は続行され、手術を終えました。
    その後、無事に両足は普通に動いたので安心していたのですが、2日後に右足の付け根から足先までに神経痛(リンパを押したようなキーンとした痛み)とお尻部分には痺れが出るようになりました。
    お尻の側面を触ると、その少し下の方でビリビリした感覚が走ります。
    腰椎麻酔の時に電撃痛があったので、神経根に触れてしまった可能性は高いですよね?
    神経障害が出てしまったのでしょうか。
    一過性なのであれば、大体どれぐらいの期間で回復するのでしょうか。
    また、一過性ではなく、一生ものになってしまった場合は、どうすればいいのでしょうか。
    腰椎麻酔の副作用として、頭痛が起こる可能性があることは手術前に聞いていましたが、まさかこんなことが起こるなんて全く思ってもおらずショックです。

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