術中に意識がある人は4%?!

私たちが全身麻酔の説明をするときの決め台詞(?)

「寝てる間に終わっちゃいますから大丈夫ですよー!」

これもう安易に言えないかもしれません。

Anesthesiology 2017; 126:214-22

PMID: 27984262

Abstract

 Methods: Two hundred sixty adult patients were recruited at six sites into a prospective cohort study of the isolated forearm technique after intubation. Demographic, anesthetic, and intubation data, plus postoperative questionnaires, were collected.  Univariate statistics, followed by bivariate logistic regression models for age plus variable, were conducted.

Results: The incidence of isolated forearm technique responsiveness after intubation was 4.6% (12/260); 5 of 12 responders reported pain through a second hand squeeze. Responders were younger than nonresponders (39 ± 17 vs. 51 ± 16 yr old; P = 0.01) with more frequent signs of sympathetic activation (50% vs. 2.4%; P = 0.03). No participant had explicit recall of intraoperative events when questioned after surgery (n = 253). Across groups, depth of anesthesia monitoring values showed a wide range; however, values were higher for responders before (54 ± 20 vs. 42 ± 14; P = 0.02) and after (52 ± 16 vs. 43 ± 16; P = 0.02) intubation.  In patients not receiving total intravenous anesthesia, exposure to volatile anesthetics before intubation reduced the odds of responding (odds ratio, 0.2 [0.1 to 0.8]; P = 0.02) after adjustment for age.

Conclusions: Intraoperative connected consciousness occurred frequently, although the rate is up to 10-times lower than anticipated. This should be considered a conservative estimate of intraoperative connected consciousness.

Background: The isolated forearm technique allows assessment of consciousness of the external world (connected consciousness)through a verbal command to move the hand (of a tourniquet-isolated arm) during intended general anesthesia. Previous isolated forearm technique data suggest that the incidence of connected consciousness may approach 37% after a noxious stimulus. The authors conducted an international, multicenter, pragmatic study to establish the incidence of isolated forearm technique responsiveness after intubation in routine practice.

日本語訳

背景:隔離前腕技法は、全身麻酔中に(駆血帯で隔離された腕の)手を動かすという口頭での命令によって、意識を評価することを可能にする。以前に隔離前腕技法のデータは、有害な刺激の後に意識の発生率が37%に近づく可能性があることを示唆している。 著者らは、通常の手技で前腕技法での応答性の発生率を確立するために国際的、多施設的、実践的な研究を行った。

方法:240人の成人患者を、6つの施設で挿管後の隔離前腕技法についての前向きコホート研究に動員した。人口統計、麻酔および挿管のデータと術後アンケートを収集した。単変量統計に続いて、年齢と変数の二変量ロジスティック回帰モデルを実施した。

結果:挿管後の独立した前腕技術応答の発生率は4.6%(12/260)であった。レスポンダー12人のうち5人は、手を絞って痛みがあると伝えた。応答者は交感神経活性化の徴候(50%対2.4%; P = 0.03)がより頻繁である非応答者(39±17対51±16歳; P = 0.01)より若かった。どの患者も、術中事象を術後にはっきり覚えていなかった(n = 253)。群間で、麻酔深度は広い範囲を示したが、応答者で挿管前(54±20対42±14; P = 0.02)および後(52±16対43±16; P = 0.02)で高い値を示した。挿管前に揮発性麻酔薬への暴露され全静脈麻酔でなかった者は、年齢調整後の反応のオッズ比を低下させた(オッズ比0.2 [0.1〜0.8]、P = 0.02)。

結論:術中の意識は頻繁にあるが、その割合は予想より10倍低かった。術中意識の控えめな評価と考えるべきである。

「寝てる」を一口にいってもいろいろ

「寝てる」にもいろいろあります。
  1 寝たふり (意識があって、意識的に反応しない)
  2 反応できない(意識があるけど、反応することができない)
  3 意識がない
私たちは患者さんの苦痛を取除く麻酔をしている以上3の「寝てる」を目指しているわけですが、2の状態を「術中覚醒」といいます。

術中覚醒について

術中覚醒は0,1-0,2%程度の頻度で起こると言われています。
そのリスク因子としては心臓手術、帝王切開、外傷、小児、女性、薬物、術中覚醒の既往、低心機能、低肺機能、TIVAなどがあります。
診断はしばしば難しく、術後に少なくとも3回くらい時間をおいて(術翌日、1週間後、1ヶ月後とか)尋ねる必要があるようです。
術中覚醒シンポの個人的なまとめ①がわかりやすいですのでご参照ください。

潜在的術中覚醒の診断法

術後に記憶から消えてしまっていても、その時に記憶があるというケースもあるようです。それを調べるためには、リアルタイムで確かめるしかありません。
通常、挿管をする時には筋弛緩薬を使うので、患者は仮に意識があってもそれを伝える手段がありません。
そこで、考え出されたのがこの論文で行なっている方法です。前腕に駆血帯を巻いておくことで血流を遮断し筋弛緩薬を届かないようにすることで、手だけ動く状態が作れます。そして、術中に話しかけてジェスチャーでコミュニケーションを取るのです。
「●●さーん。わかったら手を握ってください!」
「ぎゅ」
みたいな。(ちょっと怖い汗)

潜在的術中覚醒の頻度

でこの結果ですが、4.6%だったそうです

結構多いですね。汗
この研究では術後24時間で覚えていた人はいないようですが、先ほども述べたように本来は後から思い出したりもするので数日後にも聞く必要があります。
さらには、痛みを感じた人も5人いたということですから驚きです。
先行研究よりは少ない結果だったものの、こういった人達が一歩間違えると術中覚醒するのだと思うと麻酔科としては背筋が凍る思いがします。

潜在的術中覚醒のリスク

反応のあった人はBISなどの麻酔深度指標で反応がない人に比べたら浅めの傾向はあったものの、各ケースで見てみると適度な鎮静とされているBIS40-60でも術中意識があった人がいました。
BISだけを信用はできないようです。
また、血圧や心拍数も反応があった人となかった人で差がなかったそうですね。
反応があった人は若めの年代で多かったり、導入時にセボフルレンを併用していなかったり、βブロッカーを使用していない人が多かったりしたようですが、これにはさらなる研究が必要そうです。

覚えていなくても不快さは残る?

さらに興味深いことに、反応があった人は術後の鎮痛コントロールへの満足度は低かったり、シバリングが多かったりといったことがあったようです。

記憶に残っていなくても術後に悪い影響を与えうることがあるのであれば確実に予防して行かなくてはならないでしょうね。

教訓

とりあえず、導入時にはしっかりセボフルレンを併用していこうと心に決めました。

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