心臓麻酔での硬膜外麻酔併用は有用か?

以前硬膜外麻酔衰退する説を大々的に?記事にいたしましたが、なんだかんだ言って今のところ

硬膜外麻酔は胸腹部手術のスタンダードな

術中術後鎮痛

であることは間違いありません。

ただし、この硬膜外麻酔をルーチンにすべきか否かがかなり議論が分かれる手術

それが心臓手術です。


心臓手術は手術の中でもかなり侵襲が大きく術後の循環動態の安定も容易ではありません。

簡単に心臓手術麻酔の歴史を振り返ってみると、

1980年代は、大量フェンタニル麻酔、つまり循環を安定させるために大量に麻薬であるフェンタニルを使用し、術後何日間か挿管、鎮静で管理するのが通常でした。

しかし、1990年代になると早期抜管の方が術後の回復が早いことがわかってきたりレミフェンタニルの登場によってfast trackと呼ばれる早期抜管が目指すべき姿となり、

2000年以降にはUltra Fast Track、つまり手術室の中での抜管もおこなわれるようになりました。その中で、麻酔方法も変遷し自発呼吸を抑制するフェンタニルの使用量は減少してきました。

それに伴って

術中術後に硬膜外麻酔を併用が有用なのでは?

という考え方が出現してきました。
心臓手術における硬膜外麻酔のメリットは
  • 術中、術後の鎮痛に有用というのはもちろんのこと
  • 手術侵襲によるストレス反応を抑制する
  • 心筋酸素消費量を低下させ心筋酸素需給バランスを改善する
  • 交感神経遮断によって循環動態の変動を少なくする
  • 抗不整脈作用がある (この説は賛否両論)
  • 肺動脈を拡張し肺動脈圧を低下させ、右心負荷を軽減する
  • 心筋内膜、外膜の血流比の改善をする (動物実験)
などがあります。
これを支持する論文には2015 Annals of Cardiac Anaesthesiaに載ったscreenshot

があります。
PMID:26139745
ここだけ聞くと、
じゃあやればいいじゃん!
となりそうですが、反対派も多くこれが未だに賛否両論なのです。
問題点はというと、
  • 血管拡張によって血圧が下がりやすい
  • 心収縮力の低下
これを支持する論文にはこんなのがありました。
screenshot
PMID:22900930
ほかには文献考察ですが、
screenshot

そして、かなりネックなのが
術中に人工物を使うため、血液が固まらないようにするためにヘパリンを使って血液をかなりサラサラにする(ヘパリン化)ため、

硬膜外血腫の危険があるということです。

硬膜外血腫はかなりまれな硬膜外麻酔の合併症で
一般的な発生率は1500ー15000例に言われていますが、幅があるし、麻酔科医の習熟度も関係している要素もあったりなかったりで定かではありません。
しかしこれによって血腫発生部位以下のレベルで麻痺が起こることがあり、転機が重大なためかなり恐るべし合併症です。
しかも、心臓麻酔の場合穿刺部位が頸椎もしくは高位胸椎となるため万一の時の結果がさらに重大なものとなりうるのです。

かなりまれな合併症なので、なかなかリスクの定量化とかヘパリンの量との関係をはっきりさせた報告がないのが現状ですが、

抗凝固薬が用いられた場合でも,Baronらは912例,Odoomらは1000例,またRaoらは3164例の硬膜外麻酔で1例も血腫の発生がなかったとする報告をしています。しかし、ヘパリン量が心臓麻酔よりかなり少ないなどの問題点もあるようです。
このような報告がある一方で、凝固異常がある人で硬膜外麻酔など何もしてないのに硬膜外血腫ができた報告もあります。
いわんや、ヘパリン化をするのにわざわざ硬膜外麻酔なんてもってのほかという考え方です。

screenshot

PMID: 26089444
この論文では、硬膜外麻酔血腫の症例報告がいくつか掲載されています。screenshot

ここでは、心臓手術での硬膜外血腫の発生率は約3500例に1例と結論づけています。
ただ、硬膜外麻酔血腫自体が症例報告レベルの合併症なので、硬膜外麻酔血腫とヘパリン化の量的な関係などはほとんどわかっていないようです。


ここで結論を出せるような問題ではありませんが、なにごともリスクはゼロではありません。

心臓麻酔の硬膜外麻酔併用も慣れた施設で慣れた麻酔科医が十分にリスクをわかった上で行うことには一定の意味があるのではないでしょうか。

*おまけ
本題とは直接関係ありませんが、硬膜外麻酔のみでの覚醒下CABGが報告されていて衝撃を受けたので載せておきます。
screenshot
PMID: 25274467
起きたまま心臓を触られるなんて想像しただけでも、戦慄が走りますね!´д` ;

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