腹腔鏡下手術に深い筋弛緩は必要か

今日はかなりマニアックです。

筋弛緩薬は、筋肉の収縮をできなくする薬で、

起きてる人間に普通に投与すると、呼吸ができなくなり窒息死します。

2014年のTBSドラマ「アリスの棘」では殺人をした麻酔科医が殺害方法として使いました。

怖い薬ですね。´д` ;


でも手術室では、日常的に使われる薬で、通常は患者を眠らせたあと、挿管の前に使います。これは、口を開けやすくしたり、咽頭反射を抑制してのどに管を入れやすくする為です。

手術中は患者が動いたり 反射で動くことがある 自発呼吸がでて人工呼吸器と同調しなかったりがないように追加投与をしていきます。

ただし、この追加投与の間隔は、手術によって、併用薬によって、はたまた麻酔科医によってまちまちです。

実際、追加投与を全然しなくても安全に手術を行える状況はいろいろあります。例えば硬膜外麻酔や、神経ブロックが効いている、レミフェンタニルを併用している、など。わたしもどちらかというと筋弛緩追加は頻回にしなくてもいいと思っていました。

しかし、最近の研究で、腹腔鏡下手術においては深い筋弛緩が有利である。という報告がありました。
 screenshot

PMID: 26945393

これは2016年Madicineの論文で72人を対象とした前向きランダム化試験で深い筋弛緩と中等度の筋弛緩で麻酔を維持した際の術後への影響を調べたものです。

この中で深い筋弛緩はPTCで1−2、中等度の筋弛緩はTOFで1-2と定義されています。
結果は、深い筋弛緩の方が術野の状態がよく、気腹圧は低くすることが可能で術後疼痛低下、肩の痛みも低下、腸管運動は良好という結果でした。

ちなみに肩の痛みは横隔膜への刺激が原因で起こるとされています。


ところで筋弛緩薬を多めに使うことのデメリットは

筋弛緩薬の効果が遷延する可能性

につきます。

筋弛緩が遷延すると十分な自発呼吸がでず、抜管できません。
不十分な自発呼吸は術後の呼吸器合併症を誘発します。
そこで、救世主となるのが年に発売された新規筋弛緩拮抗薬の

スガマデクス (商品名;ブリディオン)

です。

これは、従来のワゴスチグミンとは異なる機序で筋弛緩効果の揺り戻しがなく、比較的深い筋弛緩からも回復可能な特徴を持ちます。
これの出現により コストを気にしなければ
(200mg 1Vで9947 円とお高いのです。)

ほとんど筋弛緩遷延の心配は無くなっています。

それでも、ブリディオンを使ったあと再挿管になったら筋弛緩薬が効かないんじゃないか?というお叱りもあろうかと思いますが、Cammuらの報告では ブリディオン4mg/kg投与の5分後にロクロニウムを1.2mg/kg投与すると平均3分で挿管可能 となっており必要十分なブリディオンの投与後の再挿管も可能ということがわかっています。

ということは、腹腔鏡手術においては筋弛緩薬をケチる理由はないのかもしれません。

術中高濃度の硬膜外麻酔持続を使用することで筋弛緩作用を得られるのではという考えもあるかと思います。これを直接検証した報告は見当たらなかったのですが、Lalらは硬膜外麻酔だけで腹腔鏡下の鼠径ヘルニア手術を行った報告で術後のかたの痛みが77%の人の出たと報告しています。おそらく、気腹の影響を硬膜外麻酔のみでとることは難しいと推測されます。

レミフェンタニルに関しては、根拠はないですがおそらく自発呼吸を抑制しているだけで筋弛緩をしているわけではないので筋弛緩薬の代わりにはならないのではないでしょうか。

ということで、腹腔鏡手術ではTOFを見ながら十分な筋弛緩薬を使うべきでしょう。

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