なんとも大胆かつ、医師の声を代弁してくれている期待感が高まる題名。
これに惹かれて思わず手に取りました。
著者
筆者は、神戸神鋼病院の内科部長(当時)の村田幸生先生。あくまでも、一般の医師のひとりとして、世間の医療への過大な期待が結果として医療の崩壊を招くのではと問題提起をした書です。
医療の現場の本音を説いた書は、他にもいろいろありますが、専門的になりすぎて内輪での愚痴になりかねないところを、本書では、医療ドラマや漫画を題材にして、医療に対する理想と現実のギャップをわかりやすく提示しています。
”白い巨塔”財前教授から学ぶ信頼関係の喪失
白い巨塔は私自身とてもファンで何度も本や、ドラマを見てきましたが、毎回新たな発見があり、飽きることがありません。もし、まだお読みでない方がいれば、是非手にとっていただきたいです。
本書の中では、善人として解釈されやすい里見先生について、
「うまく言葉で表せないが、とにかく「変」なんである。里見教授の言葉は清く美しく正しい。だが何か現実感がない。」
と、ツッコミをいれ、
財前教授が訴えられた原因について、
「患者に対する誠意が見られず、逆に患者を見下したようなおざなりな態度に終始していたた」ため
と分析しています。
患者と医師との間に信頼関係が失われてしまっていることが問題の根源であると。
結果に問題があったから訴えられる。しかし、そこで議論されるのが心であったり誠意であったりするため、論点が交錯するのでしょう。
”医龍”朝田龍太郎のような名医が抱かせる幻想
朝田龍太郎その人は、技術は一流、チームをまとめるカリスマ性を持ち、患者からの信頼も厚く、名誉や金に貪欲でなく、、絵に描いたような「名医」です。
著者曰く、「売れる医療ドラマのポイントを全て抑えている」のだとか。
だれもが、自分や家族が病に倒れた時、朝田のような「名医」に診てもらいたいでしょう。
これに対して本書では、
- 医師不足が叫ばれる中、ましてや「名医」だけでは、明らかに人手不足
- その、名医にも、経験不足の新人時代があったのではないか?
- そもそも「名医」は、手術以外の雑務(当直とか、外来、病棟管理)をするのか?
などと痛快にツッコみを入れてゆきます。(特に3は秀逸)
受け入れ拒否、所謂「たらい回し」は許せないが、専門外の医師の「力及ばず」も許せないジレンマ。。
他にも新研修医制度や終末期医療の矛盾についても指摘されていますが、研修医制度については自分が「新研修医制度」の人間だからというのもあるのか、少々過大に言い過ぎなのでは。。と思ってしまったりもしました。
最近の、医療訴訟、ミス、救急のありかたなどに、もやっとしている方に是非手に取っていただきたい一冊です。