第7回Nippon Neuromuscular meetingに参加して 筋弛緩を改めて考えよう

エスラックス、ブリディオンを販売するMSD株式会社が主催するNippon Neuromuscular meetingなる会に参加させていただきました。
待遇から内容からいろいろ面白かったので忘れないうちに振り返りたいと思います。

MSDって?

麻酔科的にはエスラックスとブリディオンの会社。ということしか知りませんでしたが、
本体はメルク・アンド・カンパニー。合衆国ニュージャージー州に本社を置く、世界的な製薬会社で、世界140カ国以上で事業を展開している。2011年の売上高は480億ドル。従業員数は約86,000名(2011年12月現在)。株式がダウ平均株価の構成銘柄に選ばれている。
1990年代までは医薬品業での世界売上高が断続的にトップであったが、2000年代はM&Aによる業界の再編に伴ってサノフィ・アベンティスファイザーグラクソ・スミスクラインなどに抜かれた。しかし米国メルクは2009年11月に米同業大手のシェリング・プラウを買収、売り上げ規模においてはファイザーに次ぐ世界2位に復している。(Wikipediaより)
だそうです。製品も抗がん剤、降圧薬、ワクチン、抗ウイルス薬など多岐にわたるようで、あの”メルクマニュアル”もこのメルク社が作ったデータベースなんだそうです。

待遇

当大学医局からは数名の枠で招待されているそうで、今回私もそれに応募して行かせていただいたのですが、会場に行ってみるとその規模の大きさにただ驚きました。大宴会場に一堂に会するスタイルで開会の辞によると800名程度が参加していたということでした。
参加は無料でそればかりでなく遠方からの参加者(つまり私たちのような地方の者)には交通費、宿泊費が支給されているのですから(しかも、一流ホテル泊で朝食付き、空港往復にタクシー券という大盤振る舞い)いったいこれはいくらかかる会なんだと(私が心配することではないですが、勝手に)恐れをなしました。

プログラム

会のプログラムとしては以下のようなものでした。
特別講演3はシカゴから演者を招くという気合の入りようです。その影響もあってか会場には外国人参加者の方も目立つようでした。同時通訳も入っていてイヤホンで日本語は英語で、英語は日本語で聴けるようになっていました。

MSD Award受賞者による講演

MSDが協賛で神経筋伝達に関する優秀な論文を表彰するものだそうで、現在は、臨床麻酔学会で審査されているようです。
最大3名の受賞で、今回は2名の方が受賞の記念講演を行っていました。賞金50万か。うらやましす。

LMAプロシールの挿入は筋弛緩薬を加えることで容易になるか?

LMAを入れる際に筋弛緩薬を入れる麻酔科医と入れない麻酔科医がいてそのどちらにも言い分がありますが、筋弛緩薬を入れる派の言い分である「LMA挿入が容易になるから」を検証した研究。
結果は、筋弛緩を入れた方がLMA挿入の試行回数が減り、リークが少なくなり、シール圧も高くなる。つまり、筋弛緩を入れるとLMAの挿入は容易になるという結論。
いままで検証されていなかったんだ。と意外に思う内容でしたが、そういうニッチを見つけることこそ自主研究の極意かもしれないですね。

筋弛緩モニタをする部位や年齢による筋弛緩薬の効果発現、ブリディオンの効果の違い

母指球筋の方が皺眉筋に比べて筋弛緩薬が効きやすいので、残存筋弛緩を見るのには有用ということは知っていましたが、どれくらいの差があるのかが詳細に検討されていてなるほどと思いました。
  • 皺眉筋を目安にTOF10%程度で維持した時に、母指球筋はPTC数発の深い筋弛緩が維持されており、全例で完全なTOFの回復を見るにはブリディオンは4mg/kg必要。
  • 高齢者においては、エスラックス、ブリディオンの効果発現に時間がかかるものの必要量は変わらない。

筋弛緩モニタを使用せず麻酔科医の判断で抜管した中でPACU内でのTOFが100%になっていなかった例は実に46%だそうで、TOF70%でも術後合併症が増えることが示された今、各部位や年齢特性を理解した上でモニタを使用し、完全な筋弛緩回復にこだわるべきでしょう。

閉塞性睡眠時無呼吸と筋弛緩薬

磯野先生の論文は拝見したことがありましたが、紹介される論文がほとんどご自身の研究であるというのがまず驚きでした。
呼吸の解剖生理と換気や、挿管についてその関連を詳細に検討したものが多く、概念と臨床を結びつけることこそ臨床研究なのだなぁと当たり前ながら感嘆しました。
  • マスク換気できるのを確認してから筋弛緩薬投与は時代遅れ。筋弛緩薬を投与した方が換気は楽になる。
  • 換気困難の時には筋弛緩薬を入れてみる!→それでも換気できないなら覚醒させる!!
  • 閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)は入眠すると気道が閉塞→覚醒により開通するという特性を持つので、全身麻酔時にも換気が難しくなるタイムポイントは入眠時であって筋弛緩薬投与時ではない。
    • OSASでは特に呼気時に軟口蓋が閉塞することで(鼻からの)呼気流量制限が起きやすい→PEEPをかけて開通させるもしくは、口から呼気を行うことが有効   *PEEPによって胃内へのガス流入を心配する質問もあったが、胃内へのガス流入は最高気道内圧によるもので、PEEPによって最高気道内圧が同じでも換気量が多くとれることがわかっているという回答。
    • OSASの原因は肥満、小額。どちらも顎の骨要素と軟部組織の相対的な量の不釣り合いによる。

外科医からみた筋弛緩

一言で言えば、腹腔鏡手術で、しっかり筋弛緩してくれやって話。動画などの供覧がありましたが、筋弛緩が効いているときと効いていないときの違いがあまりわからなかったのは私だけでしょうか。。
ただ、最後まで面白く聞けたのは演者のプレゼン能力なのだろうと思います。

アメリカにおけるブリディオンの使用について

私は勉強不足で、今回初めてブリディオンが日本に遅れること5年、2015年に承認されたという事実を知りました。
残存筋弛緩についての危険性(これはその前の講義でも話されていましたが)と、医療コストの問題から何でもかんでもブリディオンを使うわけには行かないというジレンマが感じられました。
ここでも臨床症状のみでブリディオンを使うか判断するのでは、残存筋弛緩は減らないので筋弛緩モニタをすべきと繰り返し強調されていました。(アメリカ人も筋弛緩モニタする人がすごく少ないんでしょう)
残念なことに同時通訳をもってしても(やや、荒れた日本語で時間差で訳されるのでこれを聞くと疲れるので英語を聞こうとしてもちんぷんかんぷんで結局どっちつかずになる)理解度が十分とはいえませんが、、

これからの臨床に生かしたいこと

  • 筋弛緩モニタは必須である
  • 皺眉筋でモニタした場合、TOF 10%以下なら4mg/kgのブリディオンを使う
  • 老人ではエスラックス、ブリディオン共に効果発現が遅いことに留意する。
  • LMA挿入時にもエスラックス投与は一考の余地あり
  • エスラックス投与によって換気は簡単になる
  • 入眠によって気道は閉塞しやすくなる
  • 換気できないから圧を上げるより、両手換気でPSVの機械換気に乗せることを辞さない
  • 特にOSASでは呼気に開口、またはPEEPをかけることを考慮
  • 腹腔鏡下術中は最後まで深い筋弛緩を維持すべき(ある程度の長さの手術ならモニタ下に持続投与がよいのでは?)

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